日本は医師不足なのか、医師偏在なのか。現状と日本医師会の主張

日本は医師不足なのか、医師偏在なのか。現状と日本医師会の主張

日本の医療技術は先進諸国に勝るとも劣らない進化を続けています。

しかし、1980年代から悪化した医師不足が地域医療を崩壊の瀬戸際に追い込み、一般市民は高度な医療技術の恩恵に浴する機会を容易には得られない事態になったのです。
そこで2007年以降は日本医師会も「医師不足」を認め、団塊の世代が全員高齢者となる2025年に予測される急激な医療費拡大、劇的な医師需要の増加に備える人材確保に乗り出しました。

医学部の定員は拡大され、2007年から9年、定員総数は約1,600人増えたという試算があります。
この「成果」を受けて、日本医師会は再び日本の医療体制は「医師の偏在」が問題なのであり、「医師の総数」が不足しているわけではないと言う見地を明らかにしました。

医師を養成する医学部は1979年に沖縄県で設置されて以来新設されていません。
あくまで既存の大学、既存の学部に権威を保管し、定員操作によって医師数をコントロールする方向性を示しているのです。

確かに、各大学では看護学科や臨床工学科など各専門学科が増設され、総合すれば定員としては充当されたかのように見えます。
ですが、医師不足の地域では人口に対して「医療施設」の数は揃っていても、その中を埋める医師がいない。
緊急事態に陥っても受け入れ先がない。
救急車が駆けつけても搬送できず、処置が手遅れになってしまう。

そのようなケースは少なくないのです。
果たして日本医師会の主張は現実に即したものなのでしょうか?

2015年度の医師必要数調査レポートから読み解くリアル

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調査の対象となった医療施設数は8,462。
うち、回答数は4,327。有効回答率51%の調査レポートから数字を抜粋してご紹介します。
これは、医療施設から見た医師の需要倍率を概算するためのレポートです。
倍率が高いほど医師不足の状況にあると考えていいでしょう。

回答した医療施設のうち、病床数が20から99床の小さな規模では医師を必要としている割合が41.7%、これに対して500床以上の大規模病院では62.4%が医師をより多く求めていることが分かります。
ただし、需要の倍率では逆転現象が起こります。

病院の規模別に見た医師必要倍率は20から99床の施設が1.06(1.11)で、500床以上では1.03(1.08)でした。
必要医師数ありと回答した病院に絞って倍率を算出すればさらに傾向が顕著に現れ、20から99床の施設が1.13(1.22)で、500床以上では1.05(1.13)でした。
カッコ内は必要求人医師数倍率です

地域別に見ると最も医師が不足している土地が確かにあり、秋田、岩手、北海道、福島といった東北地方全体が医師不足にあえいでいることが分かります。
もっとも医師必要倍率が高いトップの地域は秋田県能代、山本で、倍率は1.70。非常に高い数字です。
確かに「偏在」が確認できます。

また、医療に従事する医師数の推移を見てみると、地域だけでなく診療科目による偏在も明白でした。
1994年から2014年にかけて総数としては30.8%の増加を記録していながら、内科、産婦人科、小児科、外科の領域ではマイナス2.7からマイナス19.4%を記録しているのです。

ある年の大学入学者が一人前の医師として独り立ちするまでには10年以上の歳月を要します。
2007年に医学部に入学した人材が各地の病院で活躍を始めるのはこれからであり、2016年以降の増員数をいかに偏りなく地域に配分して行くか、それが今後の地域医療を支える柱になるでしょう。

日本医師会の方針としては、出身大学の地域での臨床研修の実施、病院や診療所の管理者要件に医師不足地域での勤務経験を導入すること、医学部入学定員の削減、医学部新設認可の差し止め、各大学の医師キャリア支援センターをつなぐ「全国医師キャリア支援センター連絡協議会」の活用、地域や診療科の偏り実態に即した「その時々」の対応。
これを骨子として医師偏在の対応に当たっていくのだと言います。

今後予測される医師の増加数と、2025年の先、人口減少時代を見据えれば理に叶った案であるのかも知れませんが、医学部新設を断固として容認しない態度には批判的な意見が寄せられているようです。
医師拡充の取り組みは一定の成果を見せるでしょう。

しかし、こうした日本医師会の姿勢が医師を目指す若者たちの選択肢を狭めることになるのではないか、医師偏在を助長するのではないか、実態としての医師不足を加速し、地域医療を崩壊させるのではないかといった不安が残ります。

2007年から始まった取り組みが効果を出すのに時間がかかったように、この医師会の方針転換が日本の医療に与える影響が形を表すのも10年、20年先の話です。
その時になって日本の地域医療がどうなっているのか、逐一変化を観察して対応する必要がありそうです。

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